恩讐の彼方に

作:菊池寛
岩波文庫ほか(青空文庫もあります)

菊池寛氏は「真珠夫人」や「藤十郎の恋」など、男女の愛憎劇のイメージが強いのですが、これは実話に沿ったお話のせいか、ちょっと毛色が違う感じ。
読んだことないと思って読み始めたのに、「あれ?この話、知ってる気がする?」と混乱した私。そういえば昔、「青の洞門」へ観光に行ったときに聞いた話でした。たった1人でトンネルを堀る+敵討ちなんて、よくある話ではないとはいえ、ちょっと小耳にはさんだ程度なのに、印象に残っているもんですね~。
まずは題名です!恩讐の彼方に・・って!どうしたら、そんな題名思いつくんですかあ!
あと、なんといっても登場人物の心模様の描き方が素晴らしいですよね。仇討ちに来た中川実之助の怒りの変化、1人で掘っている主人公をバカにしたり協力したりする村人たち・・etc。とくに秀逸なのは主人公の心理描写です。主人殺しのとき、若夫婦を殺したとき、お弓に愛想をつかしたとき、洞窟を掘ることを思いついたとき、実之助に命を差し出そうとしたとき・・・ためらったり、流されたり、後悔したり。時間にして数秒の逡巡だと思うのですが、実に丁寧に書いてくださっております。
しかし私が一番グッときたのは、心折れずにやり遂げた主人公でもなく、恨みを捨てて並んでトンネル堀りした実之助でもなく、村人・石工たちでした。最初は、途方もない挑戦をバカにしてるんですよね。でも数年が経過して、少し洞窟が出来てくると協力を始めます。トンネルが出来るとみんなが助かりますからね。だけど思うように工事がはかどらないので、バカバカしいとすぐ失望して引き揚げちゃうんです。で、また数年が経過して完成が近づいてくると、反省してまた協力を始めるんですね。トンネル開通にむけて、主人公とともに一致団結して工事が進むわけです。仇討ちだといって刃を向ける実之助に、石工たちが止めに入るシーンは意外だったのでちょっと感動でした。これが最初のころの一般大衆なら、見て見ぬふりで助けに入ったりしません。でも、何年もともに作業した了海に心酔して、いまや仲間意識があるんですよね。これだけでも主人公は救われたんじゃないかなと思いました。なんだかんだと結局は殺されなかったようですが。
菊池作品はどれも心理描写が素晴らしいので、他の作品も結構好きです。菊池先生が生きておられたなら、「このカップリングで、切ない系で、こんな薄い本お願いします!お願いします!」とリクエストしたかっただよ。はぁ・・ありえないけど。

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